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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)2374号 判決 1981年8月28日

原告 鈴木静枝

右訴訟代理人弁護士 桜井英司

被告 精光工業株式会社

右代表者代表取締役 岡野精治

右訴訟代理人弁護士 鈴木實

主文

一  被告は、原告に対し、金四四七万六二五〇円及びそのうち別表(一)の23から29までに記載の各金員(同表29については、そのうち金四七万五〇〇〇円)に対する同表に記載の各支払日の翌日から右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求める裁判

1  請求の趣旨

(一)  被告は、原告に対し、二二〇〇万円及びそのうち別表(一)に記載の各金員(同表29については、そのうち四七万五〇〇〇円)に対する同表に記載の各支払日の翌日から右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は、被告の負担とする。

(三)  第一項について仮執行の宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は、原告の負担とする。

二  当事者の主張

1  請求の原因

(一)  原告の武藤隆に対する東京地方裁判所昭和五三年(手ワ)第二七九七号約束手形金請求事件について、同庁は、昭和五三年一一月二二日、原告の請求二二〇〇万円を認容する仮執行の宣言の付された判決を言い渡した。

(二)  武藤隆は、昭和五一年一〇月八日、被告に対し、西独トルンア社製NCパンチングニグリングマシン標準付属品一式付一台(以下「本件機械」という。)を代金三六五〇万円で売り渡し、代金は、利息を含めて昭和五一年一〇月から昭和五六年九月まで毎月三〇日(毎年二月は末日)に分割して支払う約束であった。そして、昭和五四年一二月からの割賦金の額は、別表(一)、(二)に記載のとおりである。

(三)  原告は、前記仮執行の宣言付判決に基づき、水戸地方裁判所において、武藤隆の被告に対する前記売買代金の割賦金債権のうち昭和五三年一二月三一日から後に弁済期が到来するものについて二二〇〇万円に満つるまで差押え及び転付命令の申請を行い、その旨の命令を得、右命令は、昭和五三年一二月二八日、被告に対し、送達された。したがって、右売買代金のうち弁済期が同年一二月三〇日から昭和五六年四月三〇日までの割賦金債権で別紙(一)の表の分合計二二〇〇万円(同表29については、そのうち四七万五〇〇〇円)に満つるまでの分は、原告に帰属した。

(四)  よって、原告は、被告に対し、別表(一)に記載(同表29については、そのうち四七万五〇〇〇円)の割賦金合計二二〇〇万円及び各割賦金に対する同表に記載の各支払日の翌日から右完済に至るまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求の原因に対する認否

(一)  請求の原因(一)の事実は、知らない。

(二)  同(二)の事実は、認める。ただし、売買代金は、分割支払に伴う利息を含めて五〇二七万八六二六円である。

(三)  同(三)のうち原告がその主張どおりの債権差押え・転付命令を得、それが昭和五三年一二月二八日に被告に送達されたことは、認めるが、その余の事実は、否認する。被告が昭和五三年一二月三〇日に武藤に支払うべき割賦金八六万一二五〇円は、右差押え・転付命令の対象債権に含まれていない。原告が得た差押え・転付命令は、昭和五三年一二月三一日から後に弁済期が到達する割賦金債権であるからである。

3  抗弁

(一)  昭和五五年一〇月三〇日から昭和五六年九月三〇日までに弁済期が到来する割賦金は、原告が本件差押え・転付命令を得る前の昭和五二年一月ごろ、弁済によって消滅した。即ち、被告は、株式会社富士板金に対して六六二万五四六〇円の債権を有していたが、これを武藤隆に譲渡し、昭和五二年一月ごろ、同人と右債権譲渡の対価を自働債権、本件割賦金債権のうち昭和五五年一〇月三〇日から昭和五六年九月三〇日までに弁済期が到来する分を受働債権として合意相殺した。

(二)  被告は、武藤隆から本件機械を買い受けたとき、同人に対し、代金支払のために各割賦金の額を額面金額とし、各支払日を満期とする約束手形六〇通を振り出して交付したが、そのうち昭和五五年九月三〇日までに満期が到来するもので昭和五四年一月、二月、七月、八月の満期分を除くその余の手形については決済しており、昭和五四年一月、二月、七月、八月の満期の手形は武藤が既に第三者に裏書譲渡しているから、本件請求中昭和五四年一月三〇日から昭和五五年九月三〇日までの割賦金については、支払う必要はない。

(三)  仮に、右約束手形が売買代金の支払の担保のために振り出されたのであっても、原因関係の債権を請求するには、右手形を所持しなければならない。

4  抗弁に対する認否

(一)  抗弁(一)のうち被告が富士板金に対して債権を有していたこと、それを武藤に譲渡したこと、武藤と合意相殺したことは、知らない。

仮に、被告が富士板金に対して債権を有していて、それを武藤に対し、譲渡したとしても、被告は、富士板金に対して確定日付のある証書をもって通知したことはなく、又は、富士板金が債権譲渡を承諾したことはない。

(二)  同(二)のうち被告が武藤に対して本件機械の代金支払のために約束手形を振出し、交付したこと、そのうちの一部を決済したこと、一部が武藤から第三者に裏書譲渡したことは知らない。その余は、争う。

(三)  同(三)は、争う。

三  証拠《省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、東京地方裁判所は、昭和五三年一一月二二日、原告の武藤隆に対する二二〇〇万円の手形金請求事件について仮執行の宣言の付された全部認容の手形判決を言い渡し、原告は、右判決に基づき、昭和五三年一二月二六日、武藤隆の被告に対する本件機械の売買代金のうち昭和五三年一二月三一日から後に弁済期が到来する割賦金債権で二二〇〇万円に満つる額までの差押え・転付命令を得、右命令が同月二八日に被告に送達されたことが認められる(差押え・転付命令が昭和五三年一二月二八日に被告に送達されたことは、当事者間に争いがない。)。

《証拠省略》によれば、本件機械の代金額は、三六五〇万円であるが、その割賦弁済による利息を加算すると五〇二七万八六二五円となることが認められ、これを毎月三〇日(毎年二月は末日)に割賦で支払う約定がされ、昭和五三年一二月三〇日以降の毎月の弁済額が別表(一)、(二)に記載したとおりであることについては、当事者間に争いがない。

二  原告は、右割賦金のうち弁済期が昭和五三年一二月三〇日から昭和五六年四月三〇日までに到来したもの合計二二〇〇万円の支払を求めるが、前記認定のように原告が得た債権差押え・転付命令は、昭和五三年一二月三一日から後に弁済期が到来する割賦金債権を対象とするものであるから、本件請求中同月三〇日に弁済期が到来した八六万一二五〇円の支払を求める部分は、理由がない。

三  被告は、富士板金に対する債権六六二万五四六〇円を武藤隆に譲渡し、その対価と本件割賦金債権のうち昭和五五年一〇月から昭和五六年九月までに弁済期が到来する分とを合意相殺したと主張するが、右債権譲渡、合意相殺を認めるのに足りる証拠はなく、《証拠省略》は、被告の富士板金に対する債権の存在、その譲渡及び合意相殺を直接、証する書類が本件訴訟で全く提出されていないことに照らすと信用することができず、結局、被告の右主張は、理由がない。

四  次に、抗弁(二)について判断する。

《証拠省略》によれば、被告は、武藤隆に対し、本件機械の売買代金の支払のために六〇通の約束手形を振り出し、交付し、右手形のうち昭和五三年一二月三〇日から昭和五六年九月三〇日までに満期が到来する分の各額面金額、各満期は、別表(一)、(二)に記載のとおりであり、武藤がそのうち昭和五四年一月三〇日から昭和五五年九月三〇日までに満期が到来する手形については第三者に裏書譲渡し、被告は、そのうち昭和五四年一月、二月、七月、八月に満期が到来した手形を除くその余の手形について既に弁済したことが認められる。

債権差押え・転付命令が第三債務者に送達される前に第三債務者が被差押債権の支払のために手形を振り出しているときは、原因関係の債権についての差押え・転付命令の効力は、手形債権には及ばないから、第三債務者は、差押え・転付命令送達後でも、手形所持人に対し、手形金の支払をすることができ、右弁済をしたときには、原因関係の債権は、消滅し、その差押え・転付命令は効力を生じなかったことになる(最高裁昭和四六年(オ)第五二一号、昭和四九年一〇月二四日第一小法廷判決・民集二八巻七号一五〇四頁参照)。また、第三債務者が未だ手形金の支払をしない場合でも、右手形が第三者に裏書譲渡されているときは、右第三者から、手形金の支払の請求をされれば、人的抗弁がない限り第三債務者は支払を拒むことはできないのであるから、この場合も、原因関係の債権について差押え・転付命令を得た者に対して対抗することができるといわなければならない。

本件において、前記説示のとおり被告は、本件差押え・転付命令の送達前に武藤隆に対し、本件機械代金の割賦弁済のために約束手形六〇通を振り出し、交付し、右命令送達後、そのうち昭和五四年一月、二月、七月、八月に満期が到来した分を除いた昭和五五年九月三〇日までの分を弁済し、昭和五四年一月、二月、七月、八月の分についても、第三者に裏書譲渡されていて、人的抗弁が存在するとも認められないのであるから、この分に相当する原因関係債権についての原告の請求は、理由がない。

五  昭和五五年一〇月三〇日から昭和五六年四月三〇日までに期限が到来した分の割賦金の請求について判断すると、右に相当する約束手形につき被告が武藤隆から返還を受けたことは、被告が自陳するところであるから、右事実を認めることができ、そうすると、この分の割賦金債権の差押え・転付命令は有効にされたことになる。

六  よって、原告の本件請求中昭和五四年一〇月三〇日から昭和五六年四月三〇日までに弁済期が到来した分合計四四七万六二五〇円(昭和五六年四月三〇日の弁済期の分については、四七万五〇〇〇円)及びうち別表(一)の23から29までのそれぞれの金員(29については、四七万五〇〇〇円)についてそれぞれの支払日の翌日から右完済に至るまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める部分については理由があるから認容し、その余の部分については理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条本文の規定を、仮執行の宣言については同法一九六条一項の規定を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 榎本恭博)

<以下省略>

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